【痛覚変調性疼痛の症例】仰向けで寝ると鳩尾痛になり睡眠障害
機能性ディスペプシアで来院した40代男性。二年前にFDを発症し、それ以後、空腹時や食後に鳩尾痛になるが、食事はできるので体重は増えている。元来、胃は弱いタイプ。
一番つらいのは、仰向けで寝ていると鳩尾痛になり安眠できなくなること。横向きで寝るが、寝返りで起きてしまう。
初診時に、二年前にストレス要因はなかったのかを聞くと、特にストレスは感じていなかったが、仕事が忙しい時期だったとのこと。
骨格的には背骨の弯曲が大きいので、仰向けに寝ると胸腰移行部(胃の裏の辺り)に負荷がかかるタイプ。腹式呼吸をすると鳩尾痛が起こる。発症後に運動していた時期もあり、出来ないことはないが、お腹に力を入れるのが怖くて控えている。
ストレスに鈍感なタイプと推測し、「脳が疲労すると自律神経も乱れ、身体に影響します。症状のことを気にしすぎると脳バテするので、見て見ぬふりを意識してください」という説明をし、よく噛んで食べることを勧める。
2回目の来院。特に変化はないとのこと。
「仰向けで鳩尾痛になるのは、胸腰移行部にテンションがかかり、横隔膜にある食道裂孔への刺激を脳が過敏に反応して痛みとして感じているのではないか」という私の考えを話すと、男性は「そんな気がします」とすんなり理解を示してくれました。
そして、二年前に胃カメラの検査をしたときの話をしてくれます。痛みで座ることもできなかったのが、検査をしたら痛みが緩和し座ることができるようになったそうです。胃カメラのときの麻酔がなんらかのよい影響があったのではないかと男性は話してくれました。
なので、中枢性感作と呼ばれる『強い痛みを受けると脳にW痛みの記憶Wが刻まれてしまい、痛みを生じない程度の刺激であっても、刺激を受けると痛みが再現されてしまう』ことを納得してくれたのです。
痛みの分類では痛覚変調性疼痛になります。痛覚変調性疼痛とは、明らかな組織や神経の損傷を伴わずに生じる痛みです。
そこで、『敏感バリア・テクニック』という当院独自のテクニックを行いました。『敏感バリア・テクニック』は、疼痛や感覚の過敏さをバリアする機能を向上させることを目的とした感覚入力刺激です。下行性疼痛抑制の機能を向上させます。そして、そのセルフケアも指導します。
3回目の来院。少し楽になってきたとのこと。
空腹時や食後に胃が痛くなっていたのが気にならなくなり、睡眠もマシになってきたそうです。
良化の兆しが見えたので、この男性の場合は、自律神経系というより中枢性感作の問題と捉え、中枢神経系のアプローチを主軸としていくことにしました。
そして、今後の施術方針を話します。
「これからは神経系のアプローチをメインとします。イメージとしては神経の伝達ルートを太くしたり細くしたりすることをしていくと思ってください。痛みをバリアする機能の神経伝達経路を太くしていき、症状のことを意識しすぎてしまう思考面の神経伝達経路を細くしていくということです」
また、睡眠についてですが、仕事をしている平日の方が疲れているからなのか眠れるそうです。身体も疲労させてあげたほうがいいと考え、運動の再開をすすめました。水泳が好きで、泳いでいる時は無心になれるそうです。症状を気にしすぎる思考面の神経伝達経路を細くするのに役立つと思われます。
4回目の来院。あまり変化なし。
5回目の来院。あまり変化なし。睡眠時に目が覚めてしまうが、痛みで起きることはなくなっている様子。自然に目が覚めてしまう。起床時にも痛みはない。
6回目の来院。運動を再開した。
寝入りがよくなったとのこと。
通院を継続中。
この男性は、胃カメラでの麻酔で楽になった経験があったため、中枢性感作という現象で脳が痛みを発生させていることをすんなり受け入れてくれました。そのことがセルフケアを継続でき、症状の緩和につながっていると考えられます。
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痛覚変調性疼痛とは ・
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